平成10年のことです。
私は当時、音響会社を経営していました。コンサートの仕事が主でしたが、音響設備工事なども手掛けていました。
確か前年だったと思いますが長野オリンピック(冬季大会)が行われ全天候型スピーカーがRAMSA(松下電器)により開発され採用されました。
私はスキー場でそのスピーカーを採用するところがでてくるかもと思い、社員に岐阜県内のスキー場に営業活動を命じました。
結果、高鷲村(現在の高山市)のダイナランドスキー場が試聴をしたいと言ってきた。
メーカーからデモ品を借り、現場で音を鳴らしたところ採用となった。ゲレンデに何本のスピーカーを取り付けたかは、はっきり覚えていないが450万円の見積で了解してもらえた。
スピーカーの制作を発注し、スタッフの手配、宿泊施設の予約を済ませた、工事開始一週間前、スキー場の担当者から「本社の方から50万円をカットするようにと言ってきましたので、それでお願いします。」と言ってきた。
私は愕然とした。スピーカーは特注品ですでにできている。キャンセルはきかない。いわゆる抜き差しならない状態だ。50万円をカットされてもそのまま工事を開始するしかない。その工事では会社として50万円の利益を見込んでいたので結局、利益は0という結果だった。
この話を同業者にしたら、建設業界なんかでは普通にある話だよ、と言われた。下請けの業者がひどい目に遭っているのは日常茶飯事のことのようだ。
音響業界というのは、契約書を交わすという習慣が全くない。口約束だけだ。ただ商法上は口約束でも契約は有効であるとするようだ。
ただこの部分は商法改正が必要だと思う。見積書(金額及び有効期限を明記したもの)を送り相手側がそれを承諾し、見積書に承諾の署名捺印をしたらそれは法的に契約書と同等のものとする。
アメリカなどは契約社会だということが言われており、契約書を交わすことが習慣になっているようだが、日本の場合は、まだ口約束だけというケースは多いようだ。法的な整備が必要だ。

私の知人で30代の男性タレントがいる。俳優・MC(司会)の仕事をしているわけだが、MCの仕事で現場に行くと、担当ディレクターから「今日はもう仕事なくなったから帰っていいよ。」と言われることがあるそうだ。5万円のギャラの仕事だがもちろんお金は一銭も出ない。こんな目茶苦茶な話が今の世の中でまかり通っているのである。ひどい話だ。